父親と下駄

 

私は時々下駄を履く

そんな私が最近、特別の下駄を履く

それは父親が使用していた下駄である

下駄の歯の裏側は少し磨り減っていた

何度か履いた下駄であろう

その下駄の後ろに父親の筆で自身の名前が書いてある

値段の高い桐の木の下駄ではない

父親が昔、行商に行く時、何時も履いていた下駄である

実家の棚から2足出てきた

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記憶は定かでないが、父は行商に行くと20日前後、いや1ケ月位は家を留守にした

帰ってくると、新品の下駄の歯が、殆んど磨り減っていた

そして足の指の跡が、黒くクッキリと残っていた

その跡は板の水平から凹んでいた

どれ位歩いたのか分からない

子供心に、それは分かった

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没落した家の再建と、我々を食わすのに一杯であったのである

だから、父親と野球したり、海水浴にいったりしたことは、一度も無かった

振り返って思うに、私と正反対な真面目な人であった

飲み屋も行かず、女遊びもせず、贅沢もせず、コップ一杯の冷酒を、こぼさない様慎重に

口に運んで、美味そうに飲んでいる姿が今も目に浮かぶ

私にとって、その下駄が、一番の遺品である

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平成22113